私たちは「神話」という言葉に、完璧で崇高な存在を思い浮かべがちです。しかし、日本神話に登場する神々は、意外なほど人間くさい。怒り、嫉妬、悲しみ、そして愛情に揺れる姿が、古代の物語には数多く描かれています。
たとえば、有名な「天岩戸（あまのいわと）」の神話。天照大神（あまてらすおおみかみ）は弟・須佐之男命（すさのおのみこと）の乱暴に耐えきれず、洞窟に隠れてしまいます。太陽の神が姿を消したことで世界は闇に包まれ、八百万の神々は困り果てます。
参考：神話人
けれども、最終的に世界を再び照らしたのは、「笑い」でした。女神アメノウズメが楽しげに踊り、神々が大笑いしたその声に、天照大神は興味を引かれて外に出たのです。
ここには「深刻さの中にこそ、笑いや喜びが光を取り戻す鍵になる」という普遍的なメッセージが込められています。
また、イザナギとイザナミの物語には、「愛と喪失」が描かれています。妻を黄泉の国に失ったイザナギは、愛する者を取り戻そうと禁を破り、結局は二度と会えなくなってしまう。
けれどその悲しみが、新たな生命――太陽神・天照大神の誕生へとつながっていくのです。
失う痛みの中にも、新しい始まりがある。それは、現代に生きる私たちにも響く真理です。
日本神話の魅力は、「完璧な神」ではなく「不完全な神」が描かれていること。
そこには、弱さを受け入れ、他者と共に乗り越えていくという“人間らしさ”が息づいています。古代の神々の物語は、今なお私たちに「生きる知恵」と「希望」を教えてくれているのです。
